目が合うとドキっとする。「視線」が持つ恋のパワーとは？

　上目づかいや流し目にドキッとしたり、好きな人とは目が合うだけでも一日ハッピーになれたり……。考えてみると、恋と「視線」って非常に密接に関わっている気が！　そもそも視線にはいったいどんなにパワーがあるのでしょうか。元東京大学教授で、視覚や顔知覚に詳しい佐藤隆夫先生に教えていただきました。

「視線」が意味することとは？

「人間は、じっと目を見つめられると『もしかして、自分のこと好きなのかな？』なんて感じてしまいますよね。これは視線には『自分はあなたの敵ではない』という情報が含まれているため。人間にとって、視線はときに言語以上に重要なコミュニケーションツールとなるのです。ところが、集団生活をしているサルの目をじっと見つめてみると、キィィと鳴き声を上げて敵意を示してきます。見つめられることを好意的に捉えるのは、動物の中でも人間だけなんですよ」（佐藤先生・以下同）

　敵意だなんて……！　好意とは正反対の意味になってしまうんですね。人間とほかの動物とでは目線の意味が違うのはどうしてなのでしょうか。

「霊長類の中で『白目』をもつのは人間のみ。ゴリラやチンパンジーに白目はなく、外から見えるのは黒や茶褐色に近い瞳の部分だけです。そのため、目を動かしても視線の動きが他者からあまり分からないようになっています。つまり、それらの動物にとって視線は、生きていく上でさほど重要な意味を持たないということでもあるのです」（同）

　言われてみれば、動物たちって黒目しか見えないですね……！ でも、どうして目の構造に違いがあるんですか？

「人間は生活を営む上で他人との協力が必要不可欠。群れの中で暮らす以上、より精度の高いコミュニケーションを図る必要があったため、視線が必要だったのではないかと考えられます。

動物は、プレデター（肉食動物）とプレイ（被食者）のどちらかに分かれます。弱肉強食の世界で生きる動物にとっては、白目が目立つと相手に見つかりやすいというデメリットもあります。しかし、敵から身を守るには不利だったとしても、白目があるほうが目の動きで仲間との意思疎通がしやすいもの。人間は、より集団行動に有利なほうをとって進化してきたのかもしれません」（同）

　ふだんはあまり意識することはありませんが、視線が分かりにくくなったら不自由なことだらけかもしれません。改めて、人間の進化って奥が深いですね。

　その、「コミュニケーションの手段」だった視線が「好意」になったのはなぜなのでしょうか。

視線を「好意」と捉えてしまうのはどうして？

「それは、人間の視野と関係があります。簡単に言うと、人の目は視野の中心にしか正確な視力がないんです。たとえば次の『☆★☆』という文字の★の部分をじっと見つめると、その1行下にある文字は読めますか？　2行下は？ ……おそらくそれ以下は、ハッキリと読めないことでしょう。広い範囲が見えているようでも、実際の人間の視力はこれくらいでしかないのです。

もし新聞を読むときに周辺の文字まではっきり見えてきたら、逆に読みづらいでしょう？ つまり、視野の中心部だけはよく見え、周辺は曖昧。したがって、人は『見たいものには目を向ける必要がある』のです。その結果、『視線を送る＝相手のことが見たい・興味がある』という気持ちの表れとして伝わるのです」（同）

　なるほど！ つまり、「見る」ということそのものが、相手に対し興味関心があることを伝える手段になっているんですね。

視線を使った好意の伝え方

「じっと見つめるだけでなく、『チラッと見てそらす』というふうに応用もできます。『見たいけど、見られない』という恥ずかしさや照れの気持ちを表現することになりますから、ある種、効果的な好意の伝え方かもしれませんね。また、視線に動作を加えることで、より正確に情報を伝えることも可能です。

たとえば、会話する相手のほうに体を向けたり首を回転させることで、視線を送っている方向が明確になります。逆に、顔の向きは正面のままで視線だけ斜めに動かす『流し目』風の見方をすると、どこを見ているのか正確には分かりません。合コンのときこそ流し目を使うと、バレずに相手を観察できるかもしれませんね（笑）」（同）

　目だけで好意を伝えられると思うと、視線のパワーはやっぱり絶大！　口ベタだったり、シャイな人でも、視線からなら挑戦しやすいのでは？　筆者もさっそく実践してみたいと思います！

(池田香織/verb)