ヒトメボ

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1992年、『ちびまる子ちゃん』の第一期が終了した後に、同じ日曜の夜6時の枠で『ツヨシしっかりしなさい』というアニメが放送されました。本作は、高校生のツヨシとその家族が巻き起こすドタバタな毎日を描いた作品です。いわゆる「ゴールデンタイム」で放送されていたので、「見ていた!」という人も多いでしょう。今でも根強いファンが多く、ネット上でもたびたび話題に挙がるアニメですが、どんな作品だったのか覚えていますか? 『ツヨシしっかりしなさい』について取材してみました。

そもそも原作はどんな作品だった?

原作は1986年から1990年にかけて『モーニング』(講談社刊)で連載された、永松潔先生の同名コメディー漫画です。

主人公・井川強(ツヨシ)は、勉強以外なら家事もスポーツもなんでもこなす万能人間。家の最高権力者である母に家事を全て押しつけられ、美人だけど理不尽な要求をする姉たちに振り回される毎日を送っています。しかし時には母や姉に仕返しをしたり、面倒なことにならないように先回りして対策したりすることも……。本作は、ツヨシが送る慌ただしくも気楽な日々を描いています。

1993年からは『月刊アフタヌーン』(講談社刊)で続編の『ツヨシもっとしっかりしなさい』が、2001年には再び『モーニング』で『ツヨシしっかりしっかりしなさい』が連載されました。また、『ツヨシくんしっかりしなさい』というWeb漫画もあります。

伝説の編集長の提案で生まれた作品!

この漫画『ツヨシしっかりしなさい』は、どういった経緯で生まれた作品なのでしょうか? 原作者の永松潔先生と、初代担当編集だった講談社の川又俊哉さんにお話を伺いました。

まず、永松先生に誕生の経緯を伺ったところ、最初は連載するしないに関係なく、ツヨシの原形となる漫画を描いてみたそうです。それが評価されて連載されることになったのですが、ツヨシが「万能」で「家族に振り回される」という設定は、当時『モーニング』の編集長だった栗原良幸さん(『モーニング』や『月刊アフタヌーン』を創刊した伝説の編集長!)の提案がきっかけで生まれたそうです。

永松先生によると、連載作品にする際、栗原編集長が「ツヨシしっかりしなさい」というタイトルを考え、同時に「スーパーマンでいこう」というアイデアを出したそうです。超人であるスーパーマンも、普段はただの会社員。このような「ギャップ」を描いてはどうかという提案でした。ツヨシは家の外の人からは「頼りない末っ子」と思われていますが、実は何でもできる万能人間なのはこのためです。つまり、『ツヨシしっかりしなさい』の誕生には、栗原編集長の提案がなくてはならなかったのです。

永松先生は、「このタイトルとギャップを描くという提案があったからこそ、キャラクター設定やストーリーを作りやすかった」とおっしゃっていました。初代担当編集だった講談社の川又俊哉さんに伺ったところ、「永松先生は早い段階でストーリーを作って持ってきてくれるので、編集者としてすごく助かった」とのこと。永松先生がお話を作るのに長けているのはもちろんですが、作品の方向性を分かりやすく示したタイトルと設定が、ストーリー作りに影響したのかもしれません。

また、永松先生がストーリーを作る上で意識したのは、「読む人が楽しい、幸せな気分になれること」だそうです。「極端な話、人生に絶望した人が、また前向きな気分になれるような物語が描ければいいな、と考えながらストーリーを作っていった」と永松先生は話されました。

ちなみに、「ツヨシのお父さん」はツヨシ以上に万能ですが、単身赴任で遠方におり、たまに帰ってくるもののほとんど作中には登場しません。永松先生によれば、こうした設定にしたのは、「ツヨシ対女性陣」という構図を作るため。お父さんが家にいれば、ツヨシの味方になってしまいます。ツヨシが母・姉たちに振り回されているように描くために、お父さんは家にいないのだそうです。

なぜアニメとなったのか?

『モーニング』での連載が終了してからおよそ2年後の1992年。フジテレビ系列で日曜夜6時に放送されていた『ちびまる子ちゃん』が終了し、その後番組として『ツヨシしっかりしなさい』のアニメが始まりました。

青年誌の作品を子ども向けのゴールデンタイムの時間帯に放送ということで、当時は大人も「なぜこの作品が?」と驚き、『モーニング』を読まない子どもにとっては謎の作品でした。しかし、始まってみれば最高23.7%と高視聴率を記録。劇場アニメになったり、ゲームソフトが発売されたりなど、気付けば大人も子どもも楽しむ人気作品になったのです。

ただ、今振り返ってみれば、すでに連載が終了している青年誌の漫画をなぜチョイスしたのか気になりますね。永松先生に聞いてみたところ、実はアニメについてはノータッチで、どういった経緯でアニメになったのかは分からないのだそうです。また、それ以前にもアニメ化の話はあったものの立ち消えになったそうで、実際にアニメになってテレビで見たときは非常にうれしかったとのこと。先生にアニメを見た当時の感想を伺ったところ、「キャラクターの顔が思ったより細長く、自分の絵もそうなのかと確認したら、やっぱり長かった(笑)」と思ったそうです。

実際にアニメ制作に関わった人に聞いてみよう!というわけで、当時アニメの監督を務めた『スタジオ・コメット』の三沢伸監督にもお話を伺ってみたところ、

「なぜ『ツヨシしっかりしなさい』が選ばれたのかは、フジテレビ主導だったので私たちも知らないんです……」

とのことでした。そこでフジテレビに取材を申し込んでみましたが、「当時のことが分かる者がいない」との回答で取材NG。残念ながら『ツヨシしっかりしなさい』が選ばれた理由については分かりませんでした。

ただ、『ツヨシしっかりしなさい』が選ばれた理由について三沢監督は、「『一家が主役』で『町内会で起こるドタバタ』を描いているのが大きいのでは」とおっしゃっていました。確かに同じ時間帯で今も放送されている『ちびまる子ちゃん』や長寿アニメの『サザエさん』は不動の人気アニメですが、一家が主役、町内が舞台の作品ですよね。

また、同じフジテレビの日曜夜7時から放送されていた『キテレツ大百科』や『こちら葛飾区亀有公園前派出所』も、基本は町内が舞台です。こうした作品は家族みんなで楽しめるもの。つまりツヨシも、「お茶の間に受け入れられやすい」という理由で選ばれたのではないか、とのこと。実際に『ツヨシしっかりしなさい』はお茶の間に愛される作品になりましたから、まさに狙いどおりだったのかもしれませんね。

人気なのになぜ終わってしまったのか?

上述のように、アニメ『ツヨシしっかりしなさい』は最高視聴率23.7%を記録するなどヒット作となりました。作り手側も人気になっていることは実感していたそうです。ただ、残念ながら1994年12月に放送は終了してしまいました。

なぜ人気だったのに終わってしまったのかを三沢監督に聞いてみたところ、「ちびまる子ちゃんの二期の準備ができたからなのかもしれません」とのこと。当時小学生だった筆者は本作が好きだったので、最終回になったときはショックを受けたものです。同じように「なぜ終わったの!?」と思った人は多いでしょう。

爆風スランプのキャッチーなOPテーマ

さて、アニメの『ツヨシしっかりしなさい』を語る上で欠かせないのが主題歌です。OPテーマにTOKIOのデビュー曲である『LOVE YOU ONLY』(3代目OP)、EDテーマにWinkの『結婚しようね』(二代目ED)など、アニメを見ていない人にも広く浸透した、人気の楽曲が使われていました。ただ、最も視聴者の記憶に残っているのは、初代OPテーマとして使われた爆風スランプの『さよなら文明』でしょう。「おなら」のフレーズを連発するサビは、当時の子どもたちがまねをするなど話題になりました。

永松先生もこの『さよなら文明』が流れるOPには驚いたそうです。また、三沢監督も非常にキャッチーな曲だと思ったとのことでした。なぜこの曲が使われたのか三沢監督に聞いてみましたが、これもフジテレビと音楽会社との間で決まったことなのだとか。

ちなみに、『ツヨシしっかりしなさい』のオープニングは、ツヨシたち登場人物が飛行機からスカイダイビングするというもの。三沢監督いわく「『さよなら文明』のPVもスカイダイビングをイメージさせるような内容で、アニメとPVはほぼ同じタイミングで作られたのに偶然似ていて驚いた」そうです。なんとも奇遇ですね。

実は実写ドラマ化もされている!

『ツヨシしっかりしなさい』は、アニメ化される1992年からさかのぼること3年、1989年に実写ドラマになっています。このときツヨシを演じたのは当時SMAPだった森且行さんでした。さらにはお母さんは泉ピン子さん、お父さんは高田純次さん、長女の恵子が田中美佐子さん、次女の典子が山瀬まみさんなど、超豪華な顔ぶれ。これには永松先生もびっくりしたとか。確かに当時の森くんといえば、SMAPで最も人気のあるメンバーでしたから、永松先生が「まさか!?」と驚いたのも無理のないことだったでしょう。

『ツヨシしっかりしなさい』は放送終了から長らく再放送されませんでしたが、なんとアニメ専門チャンネルの『アニマックス』で再放送中(2019年5月29日現在)です。チャンネル加入する必要はありますが、見れば懐かしい気持ちになること請け合いです。もちろんインパクト絶大のOPも見逃せません。また、アニメしか見たことがないという人は、この機会に原作漫画を読んでみるのもいいですね。

ちなみに永松先生がビッグコミックオリジナルで連載中の『テツぼん』には、大人になったツヨシくんたちが出てきます。ツヨシ好きは、ぜひそちらもチェックしてはいかがですか?

取材協力

株式会社講談社 モーニング編集部、週刊マガジン編集部

https://www.kodansha.co.jp/

株式会社スタジオ・コメット

http://st-comet.com/

(中田ボンベ@dcp)
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ライター

中田ボンベ@dcp

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