ヒトメボ

弁護士

佐藤大和

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 日本でもようやく認知され始め、年々増加の一途をたどっているドメスティック・バイオレンス(Domestic Violence=DV)。2012年度に配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談件数は、なんと77,334件にも及びます(内閣府男女共同参画局「配偶者暴力相談支援センターにおける配偶者からの暴力が関係する相談件数等の結果について」)。

 第三者からの暴力であればすぐに傷害罪に問われるものが、配偶者という関係から表面化しにくかったり、経済的格差に縛られて逃げ出せなかったり、はたまたひどい暴力を受けながらもどこかで「愛情」を捨て切れなかったりと、さまざまな要因が絡み合い、DVの問題を複雑にしています。

 2001年に「DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)」が施行され、2度の改正を経て少しずつ整備はされてきましたが、法律では何が「DV」と判断され、被害者はどのように対処すればよいのでしょうか。弁護士の佐藤大和さんにお話を聞きしました。

配偶者による暴力はDV防止法、恋人による暴力はストーカー規制法

 まず、法律ではどこまでが「DV」と認められるのでしょう?

 

 佐藤弁護士によれば、「DV防止法においては、『配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命または身体に危害を及ぼすもの)、またはこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動』をDVと定義しています。つまり、暴力による身体的虐待だけでなく、精神的ダメージを負わせるような精神的虐待、性的虐待など、幅広い意味の『暴力』で適用されます」とのこと。ただし、現時点では、対象となるのはあくまで「配偶者」であり、恋人や元恋人などは含まないそうです。

「単にDVといえば、広義で恋人等を含む場合もありますが、現在のDV防止法の対象となるのは配偶者のみ(事実婚含む)。恋人等による暴力等については、刑法やストーカー規制法等を適用させます。また、離婚しているケースにおいては、結婚時から続く暴力であればDV防止法、離婚後に始まった暴力であればストーカー規制法等の対象になります。もっとも、『デートDV』と呼ばれる恋人間の暴力がエスカレートしているため、2014年1月からは、同居中またはかつて同居していた交際相手にも対象が広がります。ちなみに、DVの被害者はほぼ女性ですが、被害者が男性の場合でもDV防止法は適用されます」(同)

DVはスピード勝負、まずは支援センターに相談

 では、実際にDVの被害を受けている人は、どのようにしたらいいのでしょう。まず、DVを受けている証拠として、「身体的暴力を受けていれば診断書をもらうほか、加害部分の写真なども撮影しておきましょう。言葉の暴力であれば、会話を録音したり、動画を隠し撮りしておくのも有効です」と佐藤弁護士。ただし、DVは「スピード勝負」であるとも佐藤弁護士は強調します。

「DVは非常にナイーブな問題で、対応が遅れれば取り返しのつかない事態も招きかねません。弁護士から見ても、実はDVの加害者は暴力団員以上に危害を及ぼす可能性のある存在と認識しています。身に危険を感じたら、警察と同時に配偶者暴力相談支援センターに相談してみてください。一時保護をしてくれるシェルターもありますし、一時金の援助もしてもらえます」(同)

 身に危険を感じて支援センターに逃げ込んだ場合には、その後のさまざまな手続きも素早くする必要があるそう。

「突然姿を消せば、DVの加害者や友人・知人から捜索届けを出される可能性がありますから、すぐに警察に連絡してください。また、引越し先を探すとともに住民票を開示させないように手続きしておくことも重要です。子供がいれば転校しなければいけませんし、DVの加害者から離れ、二度と会わずに新しい生活を始めようと思えば、多くの手続きが必要になります」(同)

 ちなみに、裁判を起こせばもちろん慰謝料も請求できるとのこと。「配偶者による暴力が前提なので、離婚して慰謝料の請求となります。通常の離婚訴訟よりも、暴力が加わっている分だけ金額は上乗せできます」(同)

暴力の後のやさしさで、被害者の目を曇らせる

 DVでもう1点、問題となるのは、ひどい暴力を受けているのに本人がDVであると自覚できていないケースが多いこと。なかには生命の危険を感じるほどの暴力を受けながら、どこかで愛情を捨てきれず、逃げようとしないという人も少なくありません。

「DV防止法で保護申し立てができるのは、被害者だけです。親や兄弟、友人が問題を認識していても、被害者にその気がなければ本人を説得するしかありません。DV加害者の多くが巧妙なところは、暴力をふるったあとに、それを上回るやさしさで接することです。結果、被害者は『自分は本当は愛されている、必要とされている』と錯覚し、それが繰り返されるうちに暴力もエスカレートしていきます。もし危険な状態に陥っても本人が聞く耳を持たないようなケースであれば、最近は警察も敏感になっていますし、早めに第三者から警察や支援センターに伝えてください。また、相談だけであれば無料で法律相談をしている事務所もあります」(同)

 みなさんの周囲にDVを受けている疑いのある人はいませんか? 第三者との接触機会が少なければ少ないほど、正常な判断ができなくなり、ひどいDVを受けても「歪な愛情」の鎖にからめとられてしまう例は少なくありません。あるいはこの原稿を読んでいる皆さんも、実はDVを受けているのに自覚していないだけかもしれませんよ……。

(羊おとめ/サイドランチ)
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