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2015.06.27
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カップルの形が多様化した昨今、あえて籍を入れずに「事実婚」を選択する男女も増えています。そこで今回は「老後」について、佐藤大和弁護士に教えてもらいました。籍を入れずに事実婚をしていた場合、法律婚とどんな違いが生じるのでしょうか?
「老後に考えられることの一つは年金です。現在の法律では、たとえば夫が厚生年金加入者で妻が第3号被保険者(専業主婦など)である場合、老後の夫は『老齢基礎年金+老齢厚生年金』を、妻は『老齢基礎年金』をもらうことになります。これは法律婚も事実婚も同じです」(佐藤弁護士)
「前述の夫婦がもし離婚した場合、夫を支えてきた妻が老齢基礎年金のみしかもらえないのは不平等ですよね。これを解消するために作られたのが、離婚後に老齢厚生年金を夫と妻で分割して受給できるという、年金の分割制度。そしてこの制度が適用されるのは、法律婚の夫婦だけでなく、『婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む』=『事実婚でも認める』と定められているのです」(同)
「受給が認められるのは、あくまでも婚姻期間中の厚生年金のみ。事実婚の場合は、パートナーの第3号被保険者になっていた期間に限定されます」(同)
つまり、年金制度において法律婚と事実婚の差はほぼなく、「籍を入れない」ことのデメリットはないに等しいとのこと。ということは、事実婚のまま老後も連れ添っても不利益はなさそう! …と思ったら、「じつはさらなる将来に、事実婚だと不利になるケースがあるんです」と佐藤弁護士。
「高齢になると遺産相続についても考えなければなりません。しかし、事実婚となるとパートナーには遺産の相続権がありません(子どもは認知された子のみ相続権がある)。もし事実婚のパートナーに遺産を相続させたいなら、遺言を残す必要があります。遺言は独自の書き方では効力を発揮しない恐れがあるので、専門家に依頼して公正証書を作成しておいた方が安全です。ただし、遺言で事実婚のパートナーに遺産を相続させることができたとしても、事実婚のパートナーは相続税の配偶者控除が適用されず、さらに払う税金が原則として法律婚の配偶者と子、父母等の2割増となります」(同)
「遺産相続には『遺留分』という枠があります。これは特定の相続人(配偶者、子ども、父母)がいる場合に、最低限の財産を相続させるというものです。この遺留分の権利を持っている人は、自分が受け取る遺産が法定遺留分に満たない場合、足りない分を請求できるようになっているのです」(同)
もし自分の親に事実婚の別のパートナーがいたとして、遺言に「(事実婚のパートナーに)全財産を渡す」なんて書いてあったら、遺族としては複雑な思い…。様々な事情を考慮して、遺言があっても全てが望みどおりにいかないようになっているんですね。
では、そのほかに老後に生じる差はあるのでしょうか!?
「パートナーの死後、ゆくゆくは自分も一緒のお墓に入りたい…というのが一般的ですよね。しかし、宗派によっては事実婚の夫婦が同じお墓に入るのを認めていないことも。特に地方では、『籍を入れていない者が先祖代々のお墓に入るなんて御法度』という風潮があるのも事実です。とはいえ、最近は夫婦別姓でも連名でお墓を立てられるケースもありますので、よく調べてみることをおすすめします」(同)
「仏壇やお墓を承継し、ご先祖様を祀る行事を受け継ぐ『祭祀承継者』は、親族以外でも亡くなった方の指定等があれば、なれる場合もあります。また、葬儀の喪主については誰がやるべきと法律で定められていません。そのため事実婚のパートナーでも喪主を務めることは可能です」(同)
「老後、子どもの介護を必要とするようになったとしましょう。非嫡出子であり、認知されていない子どもがその親を介護施設などに入れる際、稀に手続きが煩雑になることもあるようです。法的には何ら問題ありませんが、社会的な目から親子関係を疑われ、不都合を感じるかもしれません。事実婚であっても、やはり認知はしておくのが万全でしょう」(同)
女性が一生「籍を入れない」でいること、法律婚と事実婚の違いを、法律的な視点から考察してきましたが、佐藤弁護士は「選択肢として、両者の特徴を十分に知っておくことが大切」と言います。めまぐるしく社会が変化する中で、結婚のスタイルが多様化するのは必然的なこと。自分たちにとってベストな形とは何なのか? じっくり冷静に、パートナーとの将来を考えていきたいですね。
(池田香織/verb)初出 2013/8/6
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