ヒトメボ

国立福井高専准教授

桐島周

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読了時間:約3分

「先輩、了解っす」

 なにやら敬意を表してくれているのは分かりますが、「です」じゃなく「っす」になるのはなぜなのか…。いわゆる若者言葉のひとつに数えられる、この「っす」という語尾。学生の頃、体育会系の部員がよく使っていたのを思い出します。しかし、一体全体なにがどうなって、このような表現が生まれたのでしょうか。国立福井高専准教授で日本語学を専門としている桐島周さんに伺いました。

「これは『です』という敬語の変化形です。顕著に使われ出したのは、昭和の終わりか平成のはじめ頃で、ベースになっているのは東北の方言なんです。東北方言には敬語の体系がなく、『んだねっす(そうですね)』など、文末に『っす』を付けることで丁寧語にするという習慣が昔からあります。

その後、昭和50〜60年にかけて、NHKの朝ドラ『おしん』の大ブレイクや、千昌夫さん、あき竹城さんに代表される東北出身の芸能人の活躍によって、『っす』という表現が一般に浸透していきました」(桐島さん)

 一般に広まったきっかけが「おしん」だったとは知りませんでした。てっきり、ここ10数年で生まれた流行り言葉なのかと…。方言ということは、「っす」はかなり昔からあったんですね。

 桐島先生によると、「っす」を最も頻繁に使っていたのは、現在の30代後半〜40代前半の世代で体育会系の人だと言います。使う対象は、直接の上司や先輩など。そこまで気を遣う必要のない相手に対して話すシーンで使われていました。学生と教師という関係でもよく見受けられたそうです。

「『っす』が使われたピークは平成初年頃と言えます。例えば、平成6年のヒットナンバー『今夜はブギーバッグ』(小沢健二featuringスチャダラパー)でも、『いや泣けたッス、マジ泣けたッス』という歌詞がありましたよね。その後も、平成15年頃まで頻繁に使われていましたが、その当時に比べると今は落ち着きましたね。流行を経て、くだけた表現のバリエーションのひとつとして定着した感があります」(同)

 なるほど。筆者も『今夜はブギーバッグ』を知る世代。確かに、歌詞にも出てきますね…。サブカルを代表するスチャダラパーがこの表現を使うのは、体育会系へのアンチテーゼだったのか…なんて深読みもしてしまいます。

 また、この「っす」はヤンキー言葉としてもよく使われている印象。当時の漫画でも見かけた記憶があります。なぜ、体育会系だけでなく、ヤンキーにまで「っす」が定着していったのでしょうか?

「『っす』には、『世の中に対して斜に構える心理から、規範的な敬語は使いたくない。しかし、目上の人相手だから何らかの敬意は示さないといけない』という相反する心理が込められています。ヤンキー層に定着したのも、まさしくこの心理に添う言葉だったからでしょう」(同)

 そうなんすね。確かに、先生の言ってること分かるっす。自分も舐められたくないときとか、虚勢を張りたいときによく使うっすから。でも、俺まったく体育会系じゃないので、やっぱり使い慣れないっす。ということで、何気なく使ってしまう「っす」という表現ですが、こんなに深い背景があったとは驚きです。

(船山壮太/verb)
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ライター

船山壮太

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