ヒトメボ

ブルマー評論家

中嶋聡

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読了時間:約4分

 今でこそ小中学校の体操着といえば、男女共に学校指定のハーフパンツやジャージですが、つい14~15年くらい前までは、女子学生はブルマーを当たり前のように穿いていましたよね。20代中盤である筆者も、小学生時代に女子がブルマーを穿いていたのを覚えています。でも、どうして教育現場からブルマーが消えてしまったのでしょうか?

 そこで、知っているようで知らないブルマーの始まりと終わりについて、『ブルマーはなぜ消えたのか』の著者で、精神科医の中嶋聡先生に聞いてみました。まず、ブルマーの始まりとはいつなのでしょうか?

1851年、女性解放運動家の手により誕生

「ブルマーの起源は1851年にまで遡ります。当時の女性解放運動家であったアメリア・ジェンクス・ブルマー婦人が女性の運動時の動きやすい服装としてデザインしたのです。これが1880年代にアメリカの私立学校で運動着として使用されたことがそもそもの始まりです。日本では明治時代に女学校で導入されたのを皮切りに、戦前にはすでに全国区に普及し学校現場に利用されていました。しかし、当時のブルマーは今皆さんが知っているピタっとしたシルエットのものではありません。明治期から昭和中期まで日本の教育現場で使われていたのは、『ちょうちんブルマー』と呼ばれるもので、ゆったりとした形状でした。

 転機となったのは1964年。東京オリンピックで『東洋の魔女』と称された女子バレー日本代表がゆるめのブルマーを着用していたのに対し、ソ連をはじめとした各国の代表チームが、いわゆる今多くの人がイメージする『ピタッとした』シルエットの化学繊維ブルマーを穿きこなしている姿が国内で一気に着目されたのです。これは集団で運動する選手の統率された美しさが、当時の教育理念や日本社会でよしとされてきた価値である『忍耐・理念』といったものと合致していたからだと考えられます」(中嶋先生)

 つまり、運動時の動きやすさという『機能性』を求め開発され、次第にシンプルで女性的な『美しさ』が着目されていったことで、「ちょうちんブルマー」からピタっとしたデザインのブルマーに形状が変化していったということなんですね。それでは、ブルマーが最も普及したのはいつ頃なのでしょうか?

1970年代に普及しつつも「恥ずかしい」の声が…

「1970~80年までですね。この期間では、小中高だけでなく一部の大学・短大などでも、ブルマーが着用されていました。しかし1980年頃からは『恥ずかしい』という女性側からの声が強くなっていたようで、ブルマーは好まれる運動着ではなくなっていきました。そういった声の高まりを受けつつも、ブルマーは学校という公的機関によって導入された制服であり、それに対して個人的な好き嫌いを理由に『穿きたくない』ということは、一種のわがままと捉えられていました。つまり、学校が持つ規範性が、そうした声を抑えていたのです」(同)

 それでは、1980年以降ブルマーが教育現場から衰退していった理由とは?

『性の嗜好品』となったブルマーがついに絶滅

「高度経済成長期が終わって、高度消費社会に移行するとともに、人々の人権意識が学校が持つ規範性を上回るようになったためです。具体的には、教育理念として『個人の多様性の尊重』が掲げられ、学校が生徒にルールを強制する管理主義的なものから、生徒の要望も受け入れる相互的なものへと変化していったことが大きな理由でしょう。また、男と女を区別するのは不自然だという『ジェンダー』思想が台頭してきたことも理由として考えられます。それでも、1980年代は衰退スピードがゆるやかでした。この時期は学校が持つ規範性もまだある程度強く、人権意識と拮抗していたのです。そのため1990年まではまだ小中高でひろく使われていました。

衰退に拍車をかけたのが、90年代に社会問題となった『ブルセラショップ』の登場です。これをきっかけに、女子学生に性的被害をもたらす要因としてブルマーが認知されるようになりました。『性の嗜好品』としてブルマーが扱われることに対して、女性側からの反発や、社会からの疑問の声が高まり、2000年に入ると教育現場からほぼ消え、2005年についに絶滅してしまったのです」(同)

 女性の解放活動家の手によって誕生し、「機能性」「美しさ」があるものとして広く親しまれたブルマーは、最終的に女性たちの批判の声を受け絶滅していった、というのはなんとも皮肉ですね…。知っているようで知らないブルマーの歴史、あなたはどう感じましたか?

(冨手公嘉/verb)
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冨手公嘉

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