0
0.0(0人が評価)
2019.04.07
0
0.0(0人が評価)
2019.04.07
便利な調理器具としてすっかり家庭に定着した電子レンジですが、その誕生についてはまことしやかな伝説がささやかれています。「レーダーサイトに勤務していたある兵士が、ポケットに入れていたチョコレートバーが溶けるのに気付き……」といったお話です。果たして、この話は本当なのでしょうか? 日本最強のデバンカーといわれる皆神龍太郎先生にお話を伺いました。
※「デバンカー(debunker)」とは、超常現象やオカルトを懐疑的に扱い、科学的に検証しようとする人のことです。
――日本でも、電子レンジは一家に一台というレベルで普及していますが、調理器具としては新しいものでしょうか?
皆神先生 うーん、電子レンジの発明は1945年とされていますので、皆さんが思うよりも「古い」のではないでしょうか? 1945年は第二次世界大戦が終わった年ですからね。発明したのはパーシー・L・スペンサー(Percy LeBaron Spencer)という人です。
――どんな人だったのですか?
皆神先生 12歳で見習い工として工場勤務を始めていますので、あまり高度な教育を受けることはできませんでしたが、アイデアマンだったようですね。海軍を除隊した後、軍需企業の「レイセオン」に務めて、「マグネトロン」の製造に携わり、効率良く製造するための手法を編み出したりしています。
このマグネトロンの製造に携わったことが、電子レンジの発明につながるのです。マグネトロンはレーダーの中核部品で、「マイクロ波」を発生します。マイクロ波は、非常に波長の短い電磁波で、これを利用して調理するのが電子レンジです。つまり、レーダーに使っていた部品を調理用に転用したのが電子レンジというわけです。
――なるほど。電子レンジの誕生のきっかけになったのが「チョコレートバーが溶けること」だった、と。
皆神先生 いや、そう単純ではないようなのです。チョコレートバーのような話は幾つも伝わっています。『キッチンの歴史:料理道具が変えた人類の食文化』(河出書房新社)という本によれば、
といった話が伝わっています。
――どれもありそうで、ビックリするような話ですよね。
皆神先生 そうですね。ただ同書には、
だが、スペンサーと一緒に働いていた技術者仲間が後に語ったところによると、実際にはそれほどドラマチックではなかった。一人の人物のユリイカの叫び(アルキメデスが金の純度の測定法を発見した時の叫び)で電子レンジが産声を上げたのではなく、何人もの人が入念な観察を重ねた結果の発明だったという。
とも書かれています。
⇒引用元:『キッチンの歴史:料理道具が変えた人類の食文化』(河出書房新社)pp141-142
――ちょっとガッカリですが、発明が地道な努力の末にあるものと考えると、劇的な話はウソっぽいのかも……。
皆神先生 より信頼できる『IEEE』(Institute of Electrical and Electronics Engineersの略:米国電気電子学会)の「A Brief History of the Microwave Oven(電子レンジの歴史)」では、1958年の『リーダーズ・ダイジェスト』の記事を引用しています。その記事では、マグネトロンのある研究室を訪れたスペンサーが、装置をオンにしたときポケットの中の「peanut bar(ピーナツ・バー)」が調理されるのに気付いた、となっています。
⇒『IEEE』
https://spectrum.ieee.org/tech-history/space-age/a-brief-history-of-the-microwave-oven
――チョコレートバーという話は、ここから来ているのかもしれませんね。
皆神先生 チョコレートバー、卵、サンドイッチなどが発明のキッカケになったという伝説がありますが、今となってはどれが正しいのか、また本当にそのような劇的なことがあったのかについては確かめようがありません。人間は話を面白くしようとしますし、面白い話は人の心に残り、口伝えでどんどん拡散しますからね。ただ、何か発明のきっかけになったことがあったのは信じてもいいように思います。
――ありがとうございました。
まことしやかにいわれる「電子レンジ発明のきっかけ」ですが、チョコレートバーだけでなく「卵」「サンドイッチ」が登場するバージョンもあるようです。また、発見者はレーダーサイトの兵士ではなく、レイセオン社に勤務していた技術者でした。都市伝説はどれも面白いですが、それが本当かどうかを調べてみると、意外な事実に行き当たったりします。あなたは「電子レンジ」がどのように発明されたのか、ご存じでしたか?
(柏ケミカル@dcp)
0comments