ヒトメボ

サブカル系歴史作家

堀江宏樹

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 大好きな人に「結婚してください!」とプロポーズすることも、その際に指輪を贈ったり結婚式で交換した指輪を生涯つけ続けたりすることも、みんながみんな実践しているかは別にして、現代では当たり前のことのように認識されていますよね。こうした風習は、いつから日本に広まったのでしょうか? 歴史作家の堀江宏樹先生にお話を伺いました。

プロポーズ自体は古墳時代からある!?

「歴史上明らかにされているプロポーズ文化の始まりは古墳時代の頃。相手を思う気持ちを詩(歌)にして、お目当ての異性が住む家の前で呼びかけることがプロポーズの始まりだったと『万葉集』などの古い文献に残されています。平安時代になると貴族の男性が女性に優雅な和歌を詠んで求婚していました。

平安後期以降の乱世になると、和歌を読んで求婚するという文化は影を潜めていきます。それは、結婚というものが『家柄を守るための政略的な部分はあるにせよ、恋愛の末に行われるものだ』という認識から、『家と家を結びつけるための政略的なもの』という認識に移っていったからだと考えられます」(同)

 ここからしばらくの間、恋愛結婚の風潮は息を潜めるんですね。

 

江戸時代にいったん変化するものの…

「江戸時代に入ると、上流階級だけでなく庶民でも和歌や手紙を好きな者同士で贈り合い、その和歌で求婚する形が再び親しまれるように。明治~昭和初期あたりでは未婚の娘の親と未婚の男性の間で『娘さんをもらいたい』もしくは、『娘をもらってくれ』という相談が予めなされて、それが成立すれば父親から娘に伝えて結婚させるという形式がメインになっていきました。

これは明治以降のキリスト教の浸透により、処女性を重んじる文化が広まり、恋愛の貞操観念やモラルが平安や江戸期に比べ厳しくなっていったことに起因します。ですから、今では当たり前の風習となった『結婚してください!』と堂々と愛を告げ、婚約指輪を渡す華々しい愛のプロポーズの歴史は意外と浅いのです」(同)

 なるほど。自由になったり厳しくなったり、結婚を取り巻く環境は時代によって何度も変わっているようです。ところで、指輪を渡す風習はいったいどこからやってきたんでしょうか?

指輪贈答の起源は古代ローマ帝国!?

「指輪を渡すという行為の起源は古代ローマ帝国の時代まで遡ります。当時、相手に渡された指輪をつけるということは『約束の履行を誓約するしるし』とされていました。1世紀頃には、飾りのない鉄の指輪が用いられ、2世紀には既に純金製のものを使うようになっていったというキリスト教文化を示す文献があるのです。

ただ、教会が結婚指輪に祝福を与えるようになったのは11世紀頃からで、そのときに指輪を結婚の証として左手の薬指にはめるという風習が生まれたと言われているようです」(同)

 ちなみに、なぜ「左手の薬指」なのか、古代ギリシャでは「薬指は心臓と1本の血管で繋がっている」と考えられていて、より心臓に近い左指にはめることで「ハートを繋ぎとめておく」という意味が込められているというのが有力な説だとか。さらに、途切れることがないリング(輪)に「その愛情が永遠に終わらないように」という願いも込められ、指輪が結婚の証になったと言われています。では、日本にその文化が伝わったのがいつ頃かというと…

もともとは当時の文化人や特権階級の間で広まった!

「日本に結婚指輪という文化が伝わってきたのは、国をあげて欧化政策が進められた明治維新以降。福沢諭吉がキリスト教を国の宗教に押し上げようとした頃のことです。江戸時代から数百年間も鎖国が続き独自の文化を育んできた日本では、指輪はあくまで指を細く華奢に見せるためのアクセサリーに過ぎなかったようです。

プロポーズの際に指輪を男性が女性に渡すという行為は、明治期に外国人にゆかりのある文化人や当時の特権階級だった人達の間で広まり、次第に庶民まで広がっていった文化だと考えられます。そして、1960年頃に、婚約指輪を結納品に添えることが普及し、今に至ります」(同)

 おなじみのプロポーズになってから、日本ではほんの50年とちょっと。筆者の周りでは、プロポーズせず婚約指輪も贈らないカップルが多くなっているのですが、それを別にしても、今ってプロポーズから結納、婚約、結婚に至るまでの流れが非常にスピーディーになってきている気がします。プロポーズと婚約指輪のあり方、今後はどのように変化していくのでしょうか。

(冨手公嘉/verb)
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ライター

冨手公嘉

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