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2015.12.12
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「キス」のことを、ちょっとオシャレに「くちづけ」などと言うこともありますが、昔は「接吻」と言いました。この接吻という言葉が生まれたのは、じつは明治時代半ばのことなのだそう。では、それまでは何と言っていたのかというと…。
「平安時代、紀貫之の『土佐日記』の中に初めて『口を吸う』という言葉が登場しました。これが、まさにキスのことですね。口を吸う(『舌を吸う』ということもある)という見たままの表現ということもあり、当時はかなりキワドい言葉として扱われたようです。そのため、時代とともに一風変わった隠語で呼ぶようになったんですよ。例えば、漢字の『口』を2つ並べて『口口』としたり、はたまた上下につなげて『呂』と表現したりしました」
そう教えてくれたのは、サブカル系歴史作家の堀江宏樹さん。堀江さんいわく、こうした恋愛や性にまつわる隠語は遊郭の歴史とも関わりが深いのだそう。たとえば、キスのことは…
「遊女たちの間では、キスのことは『おさしみ』と言いました。これは、キスの感触が魚の刺身と非常に似ているため。また、当時は今のような高性能な冷蔵庫もないですから、生温い刺身を食べていたはずです。これが人の舌や唇の温度とよく似ていることから、こう呼ばれたのかもしれませんね」(同)
描写が的確というか何というか…昔の言葉って妙にリアルで、どこか艶めかしいですね(笑)。今回は、そんな遊郭用語の数々を堀江さんに教えていただきました。
セックスにおいて男女がオーガズムに達することを言います。「気」は東洋医学で陰陽のエネルギーを持ち、男女がセックスによりそれぞれのエネルギーを交換し吸収しあうことで、よい効果を発揮すると考えられていました。また、今でこそ「セックスできれいになる」というのは女性誌の特集などでもよく見かけますが、昔は男性こそセックスで健康美を手に入れられるとされていたようです。健康オタクで有名な徳川家康や毛利元就などの戦国武将も、医者にこの話を聞いて実践していたという記録が残っています。
一般的には、実際より中身を多く見せるために、箱や桶(場合によっては靴)などの底を少し上げて作ったもののことを指しますが、遊郭ではペッサリーのように懐紙を詰めた避妊法のことを「上げ底(あげぞこ)」と言いました。彼女たちにとって妊娠は重大な問題であったと同時に、嫌な客との行為で気を遣らないために使われていたとも言われています。
女性同士の性行為の一種。その形状からまさに貝と貝を合わせてことを行う、という意味でこの言葉が使われました。たとえば、幼い女児は「シジミ」、年頃になると「ハマグリ」、熟女は「赤貝」…だそうです。
遊女の中でも最下層の人のことを指します。蹴転がるように次から次へと客の相手をしなくてはならなかったからとも、蹴り転がしてでも客を店に入れたからとも。転じて、不美人を指す言葉として差別用語的に使われたことがありますが、本当に不美人だったかというと、必ずしもそうではないようです。
「筆」は男性の性器を指す隠語。たとえば「筆太」といえば巨根のことで、「筆をおろす」とは、男性が初めて女性とセックスをすることを指します。江戸時代の頃は、一定の年齢に達すると、遊郭などで性交を実演で学ぶ風習があったとされています。
遊郭で、売れない遊女が場を持て余してお茶でもひくしかない状態=お茶ひきのこと。当時は、お茶の葉は臼でひき、茶粉をつくってから飲むのが主流でした。また、お客から声もかけられずお茶ばかりひいているような遊女たちは、おしゃべりでしとやかさに欠けている者が多かったことから、「おしゃべりで活発な女」を意味する言葉としても使われるようになりました。
昔は男性器のことを「へのこ」と呼び、これが垂れてしまう状態を「へこたれる」と言ったことから、情けない人のことを指す意になりました。女性に向かって「へこたれるな!」と励ましたり、「このヘタレ!」と罵ったりするのは、ある意味、間違いということになりますね。
厳しいしきたりがあった遊郭では、遊女が外の世界に出るのは結婚してお嫁に行くほかありませんでした。そして男性側は、遊女をお嫁にもらうためには遊郭に莫大なお金を支払う必要があったのです。身代金とは、このように遊女を身請けするための資金のこと。身代金が支払われるということは、遊女にとってはハッピーエンドでもあったのです。
「もんぴ」、「もんび」と読み、年中行事や祝祭日にあたる日のこと。今でも使われている言葉ですが、もともとは遊郭が客で賑わった日のことを指します。遊郭の紋日は、ひな祭りの3月3日などの「五節句」のほか、ちょくちょくありました。また、遊郭では遊女が上座に座り、客は常に下座に座るのが当たり前。世間とは逆さまの世界なんですね。
最近は、彼氏彼女のことを「ウチの相方が…」などと言うこともありますが、これももともとは遊郭用語です。相方は、今の漢字のほかに「敵娼」とも書き、遊郭で客がお気に入りの遊女を呼ぶときに使う言葉でした。今で言うホストクラブの永久指名制度のはじまりのようなもので、一度「敵娼」を指名したらほかの遊郭の遊女と会うことも禁止という、暗黙のルールもあったんですよ。それがいつの間にか漫才やお笑いの世界でも使われるようになったのです。
意味が少し変わったりしているものの、意外と現在でも使っている言葉が多くて驚き! たまには艶っぽく「私のおさしみ、いかがですか?」なんてアピールも、いいかもしれませんね。
(池田香織/verb)初出 2012/6/20
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