ヒトメボ

臨床心理士

石川裕理

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 冬の寒さから家のなかに閉じこもっていると、気分もなんとなく落ち込んでしまいませんか? 「私って引きこもりなのかも……」なんて不安になることも。しかし、臨床心理士の石川裕理先生によると「実は、冬に引きこもっている人のほうが生きる能力が高いのかもしれません」とのこと。それってどういうこと?

 まず、冬には「冬季うつ」という季節性のうつ病の症例があるのだそう。石川先生によると症状の例は、次のようなものです。

□睡眠時間が大幅に長くなる

□甘いものが食べたくなる

□ご飯やパンなど、炭水化物が食べたくなる

□集中力が続かなくなり、仕事や家事ができなくなる

□人付き合いがおっくうになり、外出が減る

□趣味に取り組んでも楽しくなくなる

□性欲がわかなくなる

※症状は春になると回復する

 思い当たる節はありましたか? 冬季は日照時間が短くなり、普段よりも光の刺激が減ります。これが原因で脳の神経伝達物質のセロトニンが減り、脳の活動が低下してしまうと考えられているのだそう。

 石川先生によると、基本的に季節性の気分障害は、日常生活に支障が出るほどであれば薬物療法でコントロールすることになるそうです。そしてこの季節性の気分障害(冬季うつなど)には、面白い学説があるのだとか。

「数万年前の狩猟採集・石器時代、人類はほら穴に住んでいました。そして暖かい季節には動物を狩ったり木の実を採集したりし、厳寒の冬は暖かいほら穴の中で貯蓄した食物を食べて生き抜いていた、と考えられています。そういう生活ですと、引きこもりがちな『冬季うつ型』の人のほうが、自然社会に適応しやすいということになります」(石川先生)

 たしかに、こう考えると季節に合わせて引きこもることは正常な反応かもしれません。

「長い間ほら穴に引き込もっていると飽き飽きしてくるかもしれません。エネルギーが余って、吹雪の中を元気に狩りに行ってしまうような人ですと、生きて帰って来られない危険性が高いのです。つまり冬は『うつうつとして引きこもっている』タイプの人のほうが、多くの遺伝子を残して生き延びたかもしれないということです。そう考えると、冬に気分が落ち込むのは正常なことだと思います」(同)

 「ほら穴のなかで過ごしやすいように気分が落ち込んでいたかもしれない」と石川先生。人類の適応能力はあなどれませんね。

「『冬季うつ型』の人は、石器時代だったら良かったけれど、季節に関わりなく活動しなければならない現代には、ちょっとつらいのかもしれませんね。米国の例ですが、ある診断ケースブックには『冬季うつの処方はフロリダ』と書いてあります。つまり、『どうしてもつらいなら、常夏のフロリダに住んでね』という意味です(笑)」(同)

 冬に気分が落ち込んでしまうのは、なにも悪いことばかりではないようです。あまり悲観的にならずに自分の心の状態を受け入れることが、現代の厳冬を越す方法かもしれません。

(田中結/プレスラボ)
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ライター

田中結

プレスラボ

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