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ドラマ評論

成馬零一

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 過去に夢中になったテレビ番組を聞かれて、恋愛ドラマを挙げる人も多いのではないでしょうか? 登場人物たちが巻き起こす恋模様には、当時の世相や視聴者の憧れなど、時代ごとの恋愛観が投影されていましたよね。

そこで今回は、ドラマ評論家の成馬零一さんにご協力いただき、バブル期のトレンディドラマから現在の作品まで、ヒットした恋愛ドラマの歴史を振り返ってみたいと思います。

まずはキラキラのグループ交際から!

「1980年代後半のバブル期に、『抱きしめたい!』や『男女7人夏物語』といった人気作品があり、これらがいわゆるトレンディドラマのブームに火をつけたと言われています。当時の作品は、登場人物が豪華なマンションに住んでいたり、シャンパンやワインで乾杯といったオシャレなライフスタイルを送っているのも特徴。この頃はグループ交際を舞台にした作品が多く、華やかな描写がOL層を中心にヒットしました。その集大成と言えるような作品が1991年の『東京ラブストーリー』です」(成馬さん)

 この頃はキラキラした恋愛模様を描いた作品が主流でしたが、バブル崩壊後はその反動で、社会的タブーに踏み込んだ問題作も登場してきます。

次第に性や人間の奥深い部分も描かれるように…

「野島伸司さん脚本の『高校教師』(1993年)は教師と生徒の禁断の愛を描き、注目されました。また、佐野史郎さんがマザコン男を演じきった『ずっとあなたが好きだった』(1992年)など、性的描写を扱った作品も話題に。単に綺麗ごとだけの恋愛ではなく、人間の奥深い部分も描かれるようになったと言ってもいいでしょう。一方、同じ時代の作品でも、武田鉄矢さん主演の『101回目のプロポーズ』(1991年)は、これまでと異なる作風で大ヒットに。主人公が泥臭く奮闘する姿に、視聴者が胸を打たれたのでしょう」(同)

 禁断の恋や危険な愛も存在する一方で、不器用で真面目な恋も忘れてはいない。形は違えど、ありのままの人間らしさを描いた作品が共感されたようですね。以降、女性の年齢的な問題や人生観をテーマにした作品も扱われるように。

ここから女性が強くなった!?

「1994年の『29歳のクリスマス』は、30歳を目前にした主人公が自分の生き方を見つめ直すことがテーマの作品です。またこの時期は、『あすなろ白書』(1993年)や『ロングバケーション』(1996年)など、木村拓哉さんの人気全盛期。『ロンバケ』で木村さんが演じる若い主人公は、どこか頼りなく男らしさに欠ける部分があるものの、最後は山口智子さん演じる年上女性と結婚します。当時の女性は十分に社会進出も果たしていて、一人でも生きていける力を持っている人も多かったため、パートナーに年下男性を選ぶストーリーも支持されたのでしょう」(同)

 恋愛において女性が主導権を握りはじめたのはこの頃からなのかもしれませんね。しかし、数年後、そんなムードが一段落し…。

純愛ブームの到来!

「1990年代末〜2000年代はじめ頃になると、トレンディドラマのブームがやや下降気味になります。すると、登場人物が難病を抱える設定の、純愛思考にストーリーが変化。北川江吏子さん脚本の『愛してると言ってくれ』(1995年)や『ビューティフルライフ』(2000年)など、障害を乗り越え愛を紡ぐストーリーが世間の涙を誘いました。その後ヒットする『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)や『いま、会いにゆきます』(2005年)は、純愛ブームをより確固たるものにした作品です」(同)

 それ以降、大ヒット作がなかなか登場しない時期もありましたが、記憶に新しい恋愛ドラマにはこんな作品が。

視聴者の願望や負の部分を描いた作品群

「『花より男子』(2005年、2007年)のヒットで、世間にはイケメンブームが到来。これは、現実の恋愛がうまくいかない女性たちが、ドラマの世界ではイケメンに囲まれる…という、視聴者の願望が背景になっているとも言えます。一方で、『ラスト・フレンズ』(2008年)などの衝撃作も話題に。これはルームシェア内の人間関係を描いた作品ですが、彼氏がDVをふるい、ストーカーになってしまうという、恋愛の負の部分を描いた現代的なドラマでした。実生活でもこうした問題を抱えている人は決して少なくないのでしょう。

さらに、映画でも大ヒットした『モテキ』(2010年)は、モテない男性目線で描かれた、恋愛ができないこと自体がテーマの恋愛ドラマです。今まで恋愛をしてこなかった20代後半の男性が悩みながら恋を学んでいく過程が、草食系男子をはじめ多くの人の共感を得ました」(同)

 ざっと恋愛ドラマ史を振り返ってみましたが、成馬さんいわく「恋愛ドラマの核となる部分は、今も昔も変わっていない」とのこと。

「基本的に恋愛ドラマは、『恋愛をとるか、仕事をとるか』という働く女性の葛藤が大きなテーマ。その構造は近作の『リッチマン、プアウーマン』(2012年)に至るまでずっと変わっていません。海外赴任する恋人について行くか行かないか。安定した家庭を築けそうな男性を選ぶか、本能のままに好きな相手を想い続けるか。…こうした二択で揺れ動く主人公に自分を重ねて楽しむことが、恋愛ドラマの大きな醍醐味ですよね」(同)

 懐かしの作品がたくさん登場しましたが、そのなかにみなさんが夢中になった恋愛ドラマはありましたか? 当時の描写を振り返ってみると、今の恋愛観に改めて刺激を与えてくれるかもしれませんね。

(池田香織/verb)
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ライター

池田香織

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