ヒトメボ

京都国際マンガミュージアム研究員

倉持佳代子

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読了時間:約5分

 多くの女性にとって青春時代に読んだ少女漫画って、とても思い入れのある大切な存在。そこからいまの恋愛観を形成するにいたるたくさんの影響を受けていたりしますよね。そこで今回は、時代時代の女の子たちを熱狂させてきた恋愛漫画の歴史を、京都国際マンガミュージアム研究員の倉持佳代子さんの解説とともにプレイバック!

本格的な恋愛漫画が誕生 1960年〜1970年代

「少女漫画で初めて本格的な恋愛が描かれたのは、1960年に描かれた水野英子先生の『星のたてごと』でした。その後、里中満智子先生や一条ゆかり先生など、戦後生まれの漫画家が活躍したのが1970年代。この時期には、少女漫画においてその後どの世代にも共通する恋愛のテーマはほぼ確立していたんじゃないかと思います。それは『ありのままの自分を受け入れてくれるヒーローの存在』と、『ヒロインの自己実現』の2つです」(倉持さん)

 倉持さんいわく、その2つの要素を表した代表例が、池田理代子先生の名作『ベルサイユのばら』だそう。

「ベルばらは、革命という自分の思想を貫いていくオスカルと、それを見守るアンドレとの究極の恋愛を描いた作品。この作品に、その後の恋愛漫画の要素が凝縮されているといっても過言ではないでしょう。ちなみに同時代には、『ポーの一族』(萩尾望都)や『風と木の歌』(竹宮惠子)など、少女漫画の革新を担った、いわゆる『24年組』の作品も人気を博しました。24年組が描いた『少年愛』の世界は、今で言う『ボーイズラブ』のはしりにもなっています。また、1970年代は、恋愛は結婚に結びつくものであるという、ロマンティックラブが深く根付いていた時代。当時、女性は25歳までに結婚することが多かったので、恋愛漫画にもそうした思想が反映されることが多かったと思います」(同)

漫画の舞台がより身近に 1980年代

 その後1980年代に入ると、分かりやすいドラマティックな舞台ではなく、より読者に身近な家庭や学校に舞台を移していった恋愛漫画が人気となったそう。

「例えば、『たそがれ時に見つけたの』(陸奥A子)や、『おしゃべり階段』(くらもちふさこ)などが人気となりました。陸奥A子先生らの作品は『乙女ちっく漫画』と呼ばれたりもしましたが、登場人物が恋をしながら自分のコンプレックスを克服していく…というような、身近な心情が描かれるようになったのがひとつの特徴です」(同)

 たしかに登場人物が身近であればあるほど、自分を重ねて楽しめますもんね。それこそが、恋愛漫画の醍醐味とも言えるはず! ところが1990年代になると、そんなロマンティックラブとは対極的なストーリーが登場しはじめます。

現実問題を描いた作品が登場 1990年代

「その先駆け的な作品が、『パートナー』(名香智子)です。登場人物は、恋人がいながらもお互いにそれぞれ別の相手もいる…という設定。『生涯でただ一人の運命の相手なんていない』というメッセージが込められ、これまでとは異なる現代的な恋愛描写に注目が集まりました。以降、『pink』(岡崎京子)や『東京ラブストーリー』(柴門ふみ)、90年代後半には『ハッピーマニア』(安野モヨコ)などの、受け身な恋愛より肉食的な恋愛を好む女性像が描かれたヒット作も登場。主人公が運命の相手を求めて奔走するストーリー自体は昔から変わらないのですが、綺麗事だけ描写するのではなく、嫉妬や欲望、虚栄心、社会的地位、お金…など、現実世界にあふれる様々な問題を描いたリアリティのある作品も注目されるようになったのです」(同)

 王道の恋愛漫画の要素がありつつも、理想と現実の両方を描いた作品が好まれるようになってきたんですね。80年代後半~90年代はじめといえば、好景気~バブル崩壊までの激動の時期。社会の変化とともに女性たちの恋愛観も変化し、それが漫画の作風にも影響を与えたのかも。その後、2000年代の作品の特徴は?

ラブコメディ&王道モノが大ヒット 2000年代

「記憶に新しいのは、『のだめカンタービレ』(二ノ宮知子)や『ホタルノヒカリ』(ひうらさとる)などですね。これらの作品で描かれているものと言えば、ありのまますぎる自分でもすべて受け入れてくれる男性の存在。さらには料理も仕事も器用にこなす…というヒーローの究極系が出てきて、多くの読者が主人公に憧れたことと思います。また、『僕等がいた』(小畑友紀)や『君に届け』(椎名軽穂)のようなまっすぐな恋愛も、多くの読者を魅了しました」(同)

 近年の作品は、個性的な主人公が巻き起こすラブコメディ要素の強いものと、王道中の王道とも言えるピュアな恋愛モノの2つがおもにヒットしているようですね。それにしても、人気恋愛漫画の流れを見てみると、時代ごとの女性の気持ちが投影されているもの! また、少女漫画によってこんな社会現象も起きました。

「例えば『ぼくの地球を守って』(日渡早紀)では前世探しを始める若者が増えたり、『NANA』(矢沢あい)の影響で、ヴィヴィアン・ウエストウッドの二次ブームが起こったり、作品内に登場するいちご柄のグラスも女の子の間でブームになったりしました。また、『ハチミツとクローバー』(羽海野チカ)のブームで美大の志願者が増えたり、『のだめカンタービレ』でクラシックブームが起きたりなど、様々な社会現象が起こりました」(同)

 あらためて、漫画の影響力って偉大。ほかにも、『ときめきトゥナイト』(池野恋)や『天使なんかじゃない』(矢沢あい)、『ママレード・ボーイ』(吉住渉)…などなど、少女漫画界にはまだまだ数多くの名作があり、今回だけではとても語り尽くせません!

(池田香織/verb)
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ライター

池田香織

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