ヒトメボ

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1980年代から90年代にかけて学生時代を過ごした女性の皆さんは『My Birthday(マイバースデイ)』(実業之日本社刊)という雑誌をご存じでしょう。10代の女性をメインターゲットとした「愛と占いの情報誌」で、主に中学生女子から熱く支持されました。同誌に掲載された「おまじない」や「占い」、投稿コーナーなどを懐かしく思い出す、かつての読者は非常に多いはず。そこで今回は、『マイバースデイ』の編集長を務めた酒井文人さん(説話社代表取締役社長)に同誌についてお話を伺いました。

↑記念すべき『マイバースデイ』創刊号(1979年4月8日発売「5月号」)。定価は290円でした。酒井編集長のお話では、当時の雑誌としては高額な方だったそうです。

『マイバースデイ』創刊のいきさつ

――『マイバースデイ』は1979年(昭和54年)4月に創刊されていますが、「占い情報誌」という他に類を見ないものでした。なぜそのような雑誌を刊行しようと思われたのですか?

酒井編集長 もともとは、懇意にしていた実業之日本社の故・柴野國晃さんから持ち込まれた企画でした。「占いを中心とした人生誌で、読者対象は10代の女の子」で新しい雑誌を出せないか?という相談を受けたのが始まりです。

――人生誌というのは若い世代にとって聞き慣れない言葉かもしれませんね。

酒井編集長 「人生教養誌」といえばいいでしょうか、実業之日本社さんは『少女の友』という雑誌を刊行していた歴史があります。1908年(明治41年)から1955年(昭和30年)まで続いた雑誌で、女学生の皆さんに大変支持されました。同誌がまさに人生教養誌で、10代の女の子たちに希望を与え、人生の悩みを解決するのを助けるような、そんな雑誌でした。柴野さんは自社のそのような経験から、新しい時代の『少女の友』をイメージしていたのかもしれません。

――占いを中心にするというのは、かなりの決断だと思うのですが。

酒井編集長 当時、どの雑誌にも、特に女性誌には必ず占いのコラムが掲載されていました。人気はあったのですが、コラムが表看板になるかどうかは確かに冒険でしたね(笑)。

ただ思春期になると、少女たちは必ず「自分はどういう人なのだろう」「あの人はどんな人なのだろう」とか、「彼は私のことを好きなのだろうか、相性はいいかしら」というようなことを考え出すわけですね。人間について深く考えるのは思春期の始まりですし、そこには人生論が成り立つ基盤ができます。

――なるほど。ただ、占い情報の定期刊行誌というのは前代未聞だったと思うのですが、編集長は自信がありましたか?

酒井編集長 思春期になると悩みが多くなりますが、占いは、少女たちの夢に希望を与え、人生の悩みを解決する手助けをする絶好の手段です。また、占星学的には星は毎月、毎日動いている……ということは、定期刊行物としても成り立ち得るのではないか? そんなふうに考えました。

↑『マイバースデイ』1985年(昭和60年)2月号。酒井編集長のお話では毎年1月発売の2月号が最も売れたそうです。

↑『マイバースデイ』1986年(昭和61年)1月号

――なぜ『マイバースデイ』という誌名になったのですか?

酒井編集長 10代の女の子にとって「誕生日」はとても大切なものですね。ひとつひとつ大人になっていく、そして自分のこと、これからの人生のことを考える日でもあるでしょう。誰のものではない、自分だけのもの、「自分だけの誕生日」です。占いを中心とした新雑誌のタイトルとしてまさにピッタリで、すんなり決まりましたよ。

『マイバースデイ』は熱い読者に支えられた雑誌だった! 毎月1万通のお便りが届く!

――『マイバースデイ』の読者層はどんなでしたか?

酒井編集長 メインの読者層を10代の女の子と設定していましたし、やはり15歳ぐらいを中心とした読者に支持されていたと思います。

――非常に多くの10代女子が『マイバースデイ』を読んでいたと思いますが、最大部数は何部でしたか?

酒井編集長 創刊号は14万部刷りましたが実売率が良くなくて、3号で刊行がとりやめになるかもと心配した時期もありました。ところが、これは今になっても不思議なのですが……5カ月たって急に売れ出したのです。実業之日本社の柴野さんは、『マイバースデイ』という雑誌が口コミで認知されるのに5カ月かかったんだ、という説明もされましたが、それが当たっていたのかどうかは分かりません。ただ、そこから1年、2年と部数を伸ばし、最大では40万部を達成しました。

――40万部はすごいですね! 当時はネットがありませんでしたから、「いい雑誌だよ」と日本全国の10代女子に口コミで広がるまで「5カ月」という時間が必要だったのではないでしょうか。

酒井編集長 そうかもしれませんね。

――『マイバースデイ』は読者投稿が熱い雑誌というイメージがあるのですが、編集部はどのように捉えていましたか?

酒井編集長 「読者参加のページを多くして、自分たちの雑誌なんだというイメージをつくる」という編集方針がありましたが、とにかく日本全国から非常に多くのお便りをいただいていました。毎月ダンボール箱に5つ分、約1万通 もの封書・はがきが編集部に届くのです。

――それはすごい。

酒井編集長 ラジオの深夜番組と似ていたのかもしれませんね。占いやおまじないについてはもちろんのこと、身の周りに起こったこと、悩み事、人生相談など、子どもたちから本当にいろいろなお便りが寄せられました。

――今でいうSNSの役割を果たしていたのかもしれませんね。

酒井編集長 そうですね、マイバースデイ編集部になら悩みを打ち明けやすかったのかもしれません。当時、読者から「今から自殺する」という電話が編集部にかかってきたこともあります。「ハローバースデイ」という読者コーナーの担当者がその電話を受けて、私と一緒に慌ててその子のいる場所にすっ飛んでいき、なんとか説得して止めました(※)。また、東京の原宿に行きたくて、家出して編集部を訪ねてきた少女をわが家に泊め、妻と面倒をみたこともあります。

※このエピソードは『編集者 ――時代を演出する編集者の世界(仕事 発見シリーズ) 』(実業之日本社刊/1991年)にも掲載されています。

――そのような相談ができるほど読者に近しい雑誌だったということですね。

↑『マイバースデイ』1994年(平成6年)1月号

↑『マイバースデイ』1999年(平成11年)5月号にして20周年記念号

覚えていますか? 『マイバースデイ』の付録

――『マイバースデイ』といえば付録も特殊なものが多かったイメージがあるのですが。編集長が印象に残っている付録はどんなものですか?

酒井編集長 「タロットカード」は目新しかったと思います。当時、日本ではまだタロットカードはそれほど知られていませんでした。現在では占いに用いるものとしてメジャーになっていますけれども。読者からの人気も高かったですね。

――付録のタロットカードを使って、占ってみた女の子がたくさんいたようですよ。ヒトメボ読者に聞いてみると、他に「夢占い事典」という付録も挙がっていましたが。

酒井編集長 『マイバースデイ』では、いろいろな先生方に占いをお願いしていましたが、例えば浅野八郎先生にお願いした『ひとりでできる相性テスト集』であるとか、マドモアゼル・愛先生の『夢占いBOOK』などを、別冊付録としてまとめました。例えば、夢占いですと、「夢日記をつけてみよう」「吉夢・凶夢の見分け方」など基本的な情報から紹介するなど、編集に力を入れていましたね。

――その編集者の努力が読者に響いたのでしょうね。ヒトメボ読者の中には今でも大事に持っているという人もいらっしゃるようです。

酒井編集長 それは編集者としてうれしいことですね。ありがとうございます。

以下は『マイバースデイ』の付録の例です。「持っていた!」と懐かしく思い出すかつての10代女子の皆さんも多いのでは!?

かつての少女読者に向けて『My Calendar(マイカレンダー)』を創刊!

――『マイバースデイ』読者は、現在アラサー、アラフォーになっていますが、編集長から何かかつての読者にメッセージがありましたら、ぜひ。

↑新創刊の『マイカレンダー』。かつての『マイバースデイ』読者は要注目です。

酒井編集長 実は、かつての読者の皆さんに向けて新しい雑誌『マイカレンダー』(季刊/創刊号は2019年3月22日発売)を創刊しました。お姉さん版『マイバースデイ』です。皆さんの悩みを解決する手助けができたら幸いです。かつての読者の皆さんに手に取っていただけたらと思います。よろしくお願いいたします。

――ありがとうございました。

ヒトメボ女性読者の中には、小学校高学年、中学生のときに『マイバースデイ』を読んでいたという人もたくさんいらっしゃるでしょう。『マイバースデイ』という雑誌は日本全国の10代の女の子たちの悩みを受け止めてくれる、コミュニティーの役割を果たしていたのかもしれません。だからこそ読者からの熱い支持を受け、40万部という巨大メディアに成長したのではないでしょうか。この記事を読んでいる皆さんは『マイバースデイ』についてどんな思い出がありますか?

⇒『My Calendar』公式サイト

https://mycale.jp/

(高橋モータース@dcp)
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高橋モータース@dcp

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