ヒトメボ

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1994年にカシオ計算機株式会社から『サイバークロス』という腕時計が発売されました。この腕時計はテレビやビデオのリモコン機能やストップウォッチ機能、赤外線を使ったメッセージ通信のほか、ゲームまでできる多機能デジタルウオッチ。当時の小学生や中学生世代の男子から圧倒的な支持を得ました。実際に持っていた人や、親にねだったことのある人も多いでしょう。今回はこのサイバークロスが誕生した経緯や当時のエピソードを、企画・開発を担当したカシオ計算機株式会社 時計開発統轄部の松沢晃一さんに伺いました。

二つの企画を一つの形にして誕生

ーーサイバークロスはどのような経緯で誕生したのでしょうか?

松沢さん サイバークロスを開発するきっかけとなった製品が二つあります。一つは『腕リモ』という、リモコン機能を内蔵した腕時計。もう一つが『スーパー電子手帳Jr.』という女の子向けの電子手帳です。腕リモは「リモコンがどこにいったか分からなくなったときのための便利グッズ」だったのですが、「自分だけのリモコンが持てる」ということで子どもにも支持された商品でした。

ーー確かに「自分だけ」という特別感に子どもは憧れますね。

松沢さん その反響を受けて、腕リモと同じような「赤外線通信」を使った新しい商品ができないかと考えました。それに加えて『スーパー電子手帳Jr.』の存在も大きかったですね。当時女の子に大ヒットした商品ですが、これの「男の子版」を時計で作れないかと考えていました。この二つの企画を一つの形にしたのが、サイバークロスです。

スーパー電子手帳Jr.

ーーなるほど。サイバークロスは「電子手帳」としての側面もあったのですね。

松沢さん はい。サイバークロスを持っている男の子と、スーパー電子手帳Jr.を持っている女の子が交流できるよう、連携機能も搭載されていました。

「子ども向け」だからこその苦労

ーー開発に当たって何が大変でしたか?

松沢さん 当時は入社3年目で若く大変なことばかりでしたが、まずは社長からのOKをもらうのが大変でしたね。それまで弊社では「おもちゃ」を作ったことがなかったので、理解してもらうのが難しかったです。そこでプレゼンでは大きな張りぼてを作って、インパクトで攻めた結果、承認してもらえたのを覚えています。

ーー「力押し」だったのですね(笑)。

松沢さん 実際に開発してみると、次は「サイズ」の問題が出てきました。機能を欲張るほどすごい製品を生み出すことはできますが、「腕時計」のサイズに収まらなくなってしまいます。サイズに合った機能を開発するのが難しかったです。また大人ではなく「子どもが使うもの」であることも大変でしたね。子どもが使うことを想定した耐久性や、夢中で遊んでも電池がすぐになくならないような駆動時間の確保も重要でした。

ーー確かに面白くてもすぐに電池がなくなってしまえば、遊ぶのに飽きてしまうかもしれません。

松沢さん 他に「電池交換」も大事なポイントでした。一般的に時計の電池は時計販売店で有料で交換するものですが、サイバークロスは時計であってもおもちゃですから、子どもでも手軽に交換できないと意味がありません。そのため、時計内部に交換手順や電池の購入方法を書いたシールを貼ったり、ネジが裏ふたから取れないように工夫したり、子どもでも交換できるように仕組みを作りました。交換用の電池やドライバーも製品とセットにしました。

ーー「子どもが使うもの」ならではの配慮が必要だったのですね。

松沢さん 海外展開もしていたので、その国の安全基準に合わせないといけなかったり、なかなか大変でした。もちろんシステムだけでなく「子どもに受ける中身」でないといけませんから、そのリサーチも苦労しました。当時は今のようにインターネットなんてありませんから、社員の住んでいる集合住宅に協力を仰ぎ、集会所で子どもたちにゲーム部分だけを遊んでもらって面白いか評価しました。

「ゲームの楽しさ」にこだわった

ーーサイバークロスといえば、やはり「ゲーム機能」が話題となりましたが、なぜゲーム機能を搭載しようと思ったのでしょうか?

松沢さん 私がゲームが好きだったことが大きいですね。ですからゲーム部分にはかなりこだわりましたね。ゲームシナリオも自分で書きましたから。また、サイバークロス開発時にちょうどゲームボーイが人気になっていたのも理由のひとつです。「ゲームを持ち運ぶ」という概念は、今思えばサイバークロスの誕生に影響を与えてくれたのかもしれません。

ーー「格闘ゲーム」が楽しめるサイバークロスもありましたが、ドットの動きがすごかったのを覚えています。

スーパーサイバークロス

松沢さん 『スーパーサイバークロス』ですね。ドットのアニメーションには相当こだわりました。また、ダメージを受けると振動する「体感振動ブースター」もかなりこだわった部分です。

ーー後に振動するゲームコントローラーが登場しましたが、「振動ガジェット」の先駆けともいえるものでしたね。

松沢さん どのゲームにも言えることですが、腕時計の小さな液晶で表示されるチープなドットであっても、「ゲームの楽しさ」が味わえるように意識しました。ゲームシステムはもちろん、ミニゲームの「スロット」で遊んでいて快適だと思える回転スピードを追求したり、音にこだわったりしました。特に音はゲームの大事なポイントなので、少ない音でも「勝った」「負けた」が実感できるものに仕上げました。実際に私自身でキーボードを演奏して音のシミュレーションを行いましたよ。

若い世代に多大な影響を与えたサイバークロス

ーー発売時の反響はいかがでしたか?

松沢さん 期待はしていましたが、その期待以上にヒットしたのを覚えています。玩具流通としては新参だったのですが、店頭で売り切れになるなどすぐに結果が出たので「えっ!? そんなに売れたの!?」と驚きましたし、うれしかったです。テレビCMの効果も重なり、発売した年のクリスマスに向けて販売店からも注文が殺到して、製造部門はかなり忙しかったようですね。

ーーライバル企業も驚いたかもしれませんね?

松沢さん 玩具メーカーさんからも「カシオ、やるじゃん」と思ってもらえましたね。当時セガにいらっしゃった湯川英一さんが商品を見に来られて、褒めてもらったのを覚えています。

ーーサイバークロスはどのような影響をもたらしましたか?

松沢さん 分かりやすい影響としては「カシオファンをうまく作ってくれた」ことでしょうか。実際に「昔サイバークロスで遊んでカシオが好きになり入社したいと思った」という人が、今同僚として一緒に働いているのはうれしいですね。

ーーありがとうございました。

1994年に発売されて大ヒットした『サイバークロス』には、こうした誕生秘話が隠されていたのです。当時遊んでいた人は、懐かしい気分になったのではないでしょうか? ちなみに、ゲーム好きという松沢さんが一番好きなゲームは『ゼルダの伝説』シリーズなのだそうです。実際にサイバークロスで遊べるRPG「タワーマスター」も、その影響を受けているのだとか。確かにアイテムのアイコンなどはそれっぽい気がしますね。

タワーマスターの剣アイコン

取材協力:カシオ計算機株式会社

⇒『カシオ計算機株式会社』HP

https://casio.jp/

(中田ボンベ@dcp)
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