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2018.05.12
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皆さんも一度は「ポルターガイスト」という言葉を聞いたことがあると思います。 家の中でヘンな音が聞こえ、食器などがひとりでに宙に舞い……といった怪現象を指す言葉で、心霊現象の一つといわれています。
今回は、日本最強のデバンカー(超常現象、オカルトを懐疑的・科学的に解明しようとする人のこと)と呼ばれる皆神龍太郎先生と、改めてポルターガイスト史を振り返ってみたいと思います。
「ポルターガイスト(Poltergeist)」は、ドイツ語の「poltern(「騒々しい音をたてる」という意味)」と「geist(「幽霊」という意味)」という二つの単語を合わせた造語で、日本語では「騒霊」などの訳をあてます。
ポルターガイスト、またはポルターガイスト現象は「心霊現象」の一つで、幽霊・悪霊などの超自然的な存在によって、
などが起こるとされます。
ーある世代以上の人はかつて『週刊少年チャンピオン』で連載していたつのだじろう先生の漫画『恐怖新聞』でポルターガイストという言葉を覚えたんじゃないでしょうか?
皆神先生:あー! ありましたね。主人公のところに「読めば100日寿命が縮むという恐怖新聞」を届ける……。あの漫画の中ではなぜかポルターガイストが新聞配達をしていました(笑)。
ー新聞配達はともかく、霊的な存在が起こす「何か物理的な超自然現象」をポルターガイストと考えて良いのでしょうか?
皆神先生:まあ一応そのような定義で良いのではないでしょうか。
ーポルターガイスト、ポルターガイスト現象はいつごろからあるのでしょうか?
皆神先生:それは人類の歴史と共にあるのかもしれませんよ(笑)。霊的な存在が、たとえば物を宙に浮かせたり、音を出したりといったことを指すのであれば、ポルターガイストという名称ができる前にも「信じている人」が目撃したりしたでしょうしね。
ー怪現象に「ポルターガイスト」という名前が付いたのはいつなのでしょうか?
皆神先生:ポルターガイストの歴史書※1によると「Poltergeists」という単語は、ドイツの神学者エラスムス・アルベラスが1540年に発行した辞書の中に出てくるのが最初なのだそうです。
ちなみにそのすぐ後には、キリスト教の宗教改革で有名なマルティン・ルター(1483年-1546年)が、ルター自身が遭遇したポルターガイスト事件について「ポルターガイストは実在する!」などと熱く語ったりしています(『テーブルトーク』に掲載)。
ーまさか歴史の教科書に出てきたマルティン・ルターがポルターガイストに遭っていたなんて、知りませんでした
皆神先生:そうですよね。ポルターガイストという言葉がなかった時代でも、ポルターガイストとされるような現象の目撃例はあったでしょう。うんと古い話ですと、
ドイツのビンゲン・アム・ラインという町では、
などの怪現象が続発した。
というのもあります。ですので名前はともかくとして、まあ心霊現象としてはありふれたものでしょう(笑)。ラップ音がポルターガイストなら、有名な「ハイズビル事件」(1848年)※2なども含みますしね。
ーポルターガイストは日本でもあるのでしょうか?
皆神先生:それがあるんですよ。江戸時代にも報告されています。※3
旗本・評定所書役の大竹栄蔵が幼少のころ、彼の父親が池尻村の娘を下働きに雇った。その娘が来て以来、大竹家では、
などの怪現象が出現。いくら調べても原因が分からない。天井の怪音が連日続くので屋根裏を調べさせても何もなかった。不思議だったのは調べて戻った男の顔が煤で汚れていたことぐらいだった。
ある老人が「雇った娘を池尻村へ帰せば、怪異は治まる」と助言。そのとおりにすると、確かに何も起こらなくなった。
ーなんだかおとぎ話の一つみたいですね。
皆神先生:起こっていることは確かにポルターガイストの典型的な例ですよね。これは天保10年(1839年)ごろに出版された東随舎の『古今雑談思出草子』に載っている話です。
根岸鎮衛の『耳袋』にも掲載されていますので、当時はよほど有名な話だったと思われます。文政年間(1818-29年)の『遊歴雑記』にも似た話が載ってます。
小日向に住む高須鍋五郎という与力が、池袋村出身の下女を雇い入れ、ついその下女に手をつけてしまう。それから間もなく家の中に石が振った。また、
などの怪現象が出現。気味悪くなった与力が下女に暇を出したところ、それ以降怪現象はぴたりと止んだ。
ーさっきの話と似ていますね。
皆神先生:「池尻」「池袋」と、どちらも「池」が付いた土地だというのも面白いでしょう? ほかにも「沼袋」などにも同様の話がありますので、何か民俗学的な根っこがあるのかもしれません。このように、ポルターガイスト事件は洋の東西を問わずにあり、あまり時代にも関係なさそうです。これは非常に興味深い点ですよ。
ーなるほど。
皆神先生:近年だと2000年10月にテレビ番組『ニュースステーション』でも生放送された、岐阜県加茂郡富加町のポルターガイスト事件が有名ですね。
ーぐっと最近になりましたね。
皆神先生:町営住宅に入居した多くの住人から不気味な音の苦情が寄せられたことで、マスメディアでも取り上げられました。
岐阜県加茂郡富加町の町営住宅で、不審な物音が多数の住人から寄せられるようになった。
などである。ある住民の部屋では、
といった怪現象が出現。また、別の住民の部屋では、コンセントにつながっていないドライヤーが勝手に動作した。
ー面白いですね。
皆神先生:大騒動になりましたので、住人の皆さんは面白いでは済まなかったのです。テレビで放送されましたし、自称霊能者といった人たちが押しかけましたしね。生活が邪魔されて本当にお気の毒だったと思います。
ーこの騒動は決着したのですか?
皆神先生:「ラップ音」というのですが、怪音については2つの説明ができます。もしかしたら読者の皆さんも自分の家で聞いたことがあるかもしれませんが「ピシッ」とか「パシッ」とかいう音です。
この町営住宅はPCパネル工法という建築方法で造られていました。これはコンクリート製のパネルを現場で組み立てるというものです。工期は短くて済みますが、熱膨張でパネルがずれ、いろいろな音がしやすいのです。パネルがずれると隣家の音も聞こえやすくなります。これが一つ。
もう一つは「ウオーターハンマー」というやつです。水道に水が流れると、水道管はゴンゴンと大きく振動することがあるでしょう? あれです。水道管の振動自体の音もそうですが、壁や周囲のものをたたくこともあり、これが怪音になるわけです。富加町の事件が大騒動になった時、知り合いの記者がこのラップ音が出るという部屋に一泊しまして、その時に録音した怪音を聞かせてもらったことがあるんですが、やはりウオーターハンマーぽい音でしたね。
ーでは、ほかの現象はどうなのでしょうか?
皆神先生:残念ながら、それらは再現性がなかったのです。つまり、第三者としての観察者がいる場では起こりませんでしたから、目撃者の証言しかありません。ですから説明できないですね。
この事件は『と学会』の本でも取り上げていまして※4、加門正一さんが実際に現場まで行き、テレビクルーと一緒に怪現象があった部屋の中も確認しています。詳細は加門さんの記事を見ていただきたいのですが、調査の結論としては「本物の超常現象である証拠は見つけることができない」です。
ーなるほど。
皆神先生:海外で起こったポルターガイスト事件の中には、詳細な調査が行われ解明されたものもあります。それらは全てイタズラで本当の超常現象ではありませんでした。
多くは子供、思春期の少年・少女が起こしたものです。「子供は純粋だから霊もその力を見せやすいのだ」なんてまことしやかにいわれますが、その子自身が周囲の大人をビックリさせてやろうと思ってイタズラを行っていたのです。
「子供がそんなことできるはずがない」と大人は言いますが、そのような年代だからこそ「イタズラ心が横溢していて、とんでもないことをしでかす」ことを、大人たちは忘れてはいけないでしょう。
ーありがとうございました。
「ポルターガイスト」という言葉の起源をどこまで遡れるかは分かりません。しかし、ポルターガイスト現象は、昔から、それこそ人類の歴史と共にあったと思われます。人間は不思議なことが大好きですからね。
※1『The Secret History of Poltergeists and Haunted Houses』(Claude Lecouteux,Inner Traditions,2012)
※2「ハイズビル事件」
1848年、米ニューヨーク州ハイズビルに引っ越して来たフォックス家(父母・三人姉妹の5人家族)が怪異な音などに悩まされたという事件。
※3『日本史 怖くて不思議な出来事』(中江克己、PHP研究所、2006年)
※4「岐阜県加茂郡富加町ポルターガイスト事件」
『新・トンデモ超常現象 60の真相<下>』に収録。加門正一さんによる詳細なレポートが掲載されている。
(高橋モータース@dcp)
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