0
0.0(0人が評価)
2018.11.22
0
0.0(0人が評価)
2018.11.22
ファッションビル、映画館、ライブハウス、レコード店……。
数々のお店と人々がひしめき合い、今もなお新たなカルチャーが生まれ続けている街、渋谷。
そんな渋谷にゆかりある方々に「私を作った渋谷 5つの地点」と題し、渋谷にあるお店やスポットにまつわる思い出を語っていただきます。
今回は、ネットメディア『BuzzFeed Japan』のライター、嘉島唯(かしまゆい)さん。
中高時代、渋谷で放課後を過ごしたエピソードから、10代の少女が新しいカルチャーに触れるときの胸の高鳴りが聞こえてきます。
NHKの近くにあったライブハウス。日が暮れるまで学校で時間を潰して、音楽を聴きに通った。多分、14歳くらいの時だと思う。
AXのコインロッカーは外にある。やけに白い電灯に照らされながら、通学バッグを押し込んだ。
「整理番号、〜番までの方どうぞ」と呼ばれていく。私の番はまだ。前の方に行けるかな、行きたいな。ソワソワしながら自分の番号が呼ばれるのを待った。
周りを見渡すと制服の人はいない。一足先に大人の世界に身をおいたような気がして嬉しかった。
倉庫のような何もない空間に、人がどんどん詰まっていく。 観客の隙間をかいくぐっては前に向かった。
いろんなライブを見たけれど、一番印象に残っているのはDragon Ashだ。Kjがステージに現れたとき、明らかに空気が変わったのを見て「ああ、これがスターなんだ」と立ち尽くしたのを覚えている。
突然、肩に重さを感じると、人の波に飛び込む観客がいた。はじめてダイブを見たし、モッシュに巻き込まれたときは「痛い」「なんなんだこれは」と唖然とした。さっきまで倉庫のような場所だったのに、理性を失うほどエンジンが入る空間になっていた。
ライブが終わると汗で服がびしょびしょに濡れている。これほど汗をかく経験はしたことがなかった。
頭をぼーっとさせながら、公園通りをくだって行く。学校はあまり楽しくないけれど、こんなにも近くに非日常があるなんて。ライブハウスは魔法の箱だった。
放課後に一番多くの時間を潰したのは、ビックカメラの上にあるマクドナルドだ。
でも、背伸びばかりしていた中学生だったので、じっくり語りたいときに向かうのは、スペイン坂にある「人間関係」だった。マックは人が多過ぎて語るに語れないことも多いのだ。
そして何より、英国風パブのような作りが、ジャンクなそれとは一線を画してるようで好きだった。
大人っぽい雰囲気とは相反して、価格は良心的。コーヒーとスコーンを頼むのが鉄板だった。たまに奮発してチョコレートのタルトも食べた。
一番安いからという理由で頼んだエスプレッソが、あんなに小さいカップで、とてつもなく苦い飲み物だと知ったのはこの店だ。
センター街に赤いポストの外観をした定食屋があった。それが恋文食堂だ。
ポスト型の入り口を潜ると、地下に降りる階段がある。くだった先にあるのは昭和を彷彿とさせるレトロな「食堂」だ。クリームとトマトソースのかかったロールキャベツやコロッケ定食など、家庭的なメニューが定番だった。
一番人気はオムハヤシ。トロットロの卵にデミグラスソースがかかったオムハヤシは、一口食べた瞬間、幸せになった。家で食べる卵料理とは全然違う。気持ちが満たされるメニューだった。学校が早く終わる土曜日は、きまってみんなでここに行った。
店内には、本当にラブレターを出せるポストがあったのだけれど、恋が実った話は聞いたことがない。
学校の帰り道、よくタワーレコードに通った。中学2年生の時、リップスライムの限定アルバム「O.T.F」を買いに走ったのが最初の経験だ。超少量生産のディスクを手にしたときは、選ばれし者のような気がして嬉しかった。
放課後、みんなは部活。私は「新しい音楽」との出会いを求めて視聴コーナー居座るようになった。
大きなヘッドホンを耳に当て、Disk 1のボタンを押すとすぐに恍惚とした。どうやら私はヨーロッパのサウンドが好きらしい。洋楽といえばアメリカのイメージが強かったので、フレンチエレクトロやUKロックは新鮮だった。とはいえ、お金がないのでCDは買えない。バンド名を覚えては、そのままツタヤに向かった。
しばらくして、ほとんど話したことのない同級生から「俺、これ好きなんだよね、聴く?」と渡されたのが、Linkin ParkとGreen Dayのアルバムだった。「サッカー部なのに、音楽聴くんだ……私はUKロックの方が好きだけど」と思いながら「ありがとう、聴いてみるね」と返事をした。
センター街を歩いていると、だいたい友だちに会う。廊下ですれ違うように「お疲れー」と言い合って、各々違う目的地に向かった。たまに先輩たちがデートをしているのを目撃し、「あの人たち付き合ってるの」と驚いて、2chの学校掲示板を確認した。当該の名前を見つけては、「あー、まじで付き合ってるんだ〜」と一人でほくそ笑んだ。
なぜ私たちは吸い寄せられるようにセンター街へ向かったのか? 歌広もマックも(プリクラの)メッカもあるからだけれど、「ジミーさん」に会いに行くためだったと思う。
ジミーさんは、ファーストキッチン前にいた。お菓子と芸能人の写真をたくさん持っていて、彼の周りはいつも女子学生たちがあふれていた。
飴を舐めながら、ジミーさんが話すアイドルのゴシップを嬉々として聞いた。たまに横を芸能人が通ると、軽く挨拶する。「一体何者なんだろう?」と思いながらも、カジュアルなやりとりに「業界」を感じた。
もう彼の姿はそこにはない。それでも、私はまだセンター街を歩いている。なんだか落ち着くのだ。
嘉島唯(かしま ゆい)
Buzzfeed Japan所属のライター / レポーター。cakesでエッセイ「匿名の街、東京」を連載中。通信会社の営業職として働いた後、ギズモード・ジャパン、ハフポスト[日本版]を経て現職。
※「私を作った渋谷 5つの地点」は、ヒトメボアプリ内ではマップ上で確認いただけます。
(撮影、編集/高山諒+ヒャクマンボルト)
(嘉島唯)初出 2018/11/22
0comments