ヒトメボ

弁護士

正木裕美

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読了時間:約4分

 「スメハラ」なんて言葉もありますが、たとえ本人が「いい香り」だと思って使っている香水だとしても、周囲の人にとってはそうではないこともあります。電車やエレベーターなどの密室では気分が悪くなってしまったり、レストランなどの飲食店では食事が楽しめなくなってしまったり……、なんて経験がある人も多いのでは?

香水のニオイで体調が悪くなったら暴行罪になる?

 もし、飲食店で隣の席に座った女性が強い香水をつけていたせいで、気分が悪くなったり、食欲がなくなったりしても、残念ながら罪には問えない可能性が高いでしょう。

 まず、法律上、暴行罪の「暴行」とは、人の身体に対する不法な有形力を行使することです。見解はいくつかありますが、簡単にいうと、物理的な力を向けたり、音・光・熱・臭気などを身体に作用させたりすることを言います。毛髪を切る、驚かせる目的で数歩手前を狙って石を投げる、日本刀を狭い部屋で振り回す、お浄めと称して食塩をふるいかける、拡声器を使って耳元で大声を出すなども暴行とされています。

 「強めの香水」は人によっては「臭気」にあたるとはいえ、ニオイに敏感かどうかで感じ方に差はありますし、香水自体は一般に人の身体に物理的な影響を及ぼすものではないので、違法とまでは言い難いでしょう。

 ただ、嫌がらせ目的など、故意に香水をかがせて、相手の体の生理的な機能に障害を生じさせたときには、理論的には傷害となる可能性はあります。しかし、おそらく香水をつけている本人も、周囲の人が体調に異変をきたすような強すぎるニオイを振りまいているとはまったく認識していないでしょうから、故意はないということで、罪には問えない可能性が高いでしょうね。

香水のニオイで吐いてしまったら傷害罪になる?

 この場合、仮に傷害罪が成立したとしても、刑事裁判にまではならないと考えられます。気分が悪くなって吐いてしまうのは身体的に苦しいことではありますが、それは一時的なもので被害が大きいとは言いにくく、通常は、刑罰まで与えるほど悪質な行為とするのは難しいため、不起訴となる可能性が高いと思われます。

 民事で損害賠償をということも考えられないわけではありませんが、少なくとも違法とされるには「我慢できないような強いニオイ」であることが必要です。はっきりした基準はありませんが、通常、香水のつけすぎくらいでは違法とはされないでしょう。

香水のニオイは威力業務妨害になる?

 たとえば飲食店で、香水が強すぎるお客さんがいるせいで、ほかの人が来てもすぐ帰ってしまう。この場合は「営業妨害」になるのでは……、と思うかもしれません。

しかし、営業妨害、つまり「威力業務妨害」の「威力」とは、一般に人の意思を制圧するに足りる有形・無形の勢力をいいます。「香水のニオイ」は苦手な人が多いとはいえ、直ちに人の意思を制圧するとは言いにくいので、「威力」にはあたらないでしょう。そのため、威力業務妨害罪にはならないと思われます。

 もっとも、香水がキツイことを理由に、店側が退店を何度となく求めたのに、拒否して店から出ないなら「不退去罪」という犯罪が成立する可能性はなくはないですが……。嫌がらせ目的ならともかく、単に飲食をしているだけなら現実には罪に問われることは考えにくいでしょう。

 刑罰を与えることは難しいですが、ニオイの許容範囲には個人差もありますし、席を離れる、または変えてもらうようお願いするのが、いちばんの解決策かもしれません。そしておしゃれをするときは、他人への迷惑行為にならないよう、常識の範囲で香水を楽しんでくださいね。

(正木裕美 弁護士/アディーレ法律事務所)
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