ヒトメボ

サブカル系歴史作家

堀江宏樹

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 あなたはもし過去に彼が浮気していたことが発覚したらどうしますか? 「できれば知りたくなかったけれど、知ってしまったからには真実を知りたい! 」なんて思ってしまうのではないでしょうか。

「では、もし愛する彼が亡くなったあと、浮気の事実がでてきてしまったらどうします? 」と話すのは、歴史作家であり「乙女の日本シリーズ」(実業之日本社)の作者である、堀江宏樹先生。女の嫉妬シリーズ、今回は徳川家茂の正室、和宮親子親王のお話です。

 先生、和宮親子内親王(以下、和宮)はどんな女性だったのですか?

「彼女は皇族として唯一武家に嫁いだ女性。嫁入りしたときは17歳でした。相手は同い年の徳川家茂。彼女はもともと婚約者がいたにも関わらず、公武合体の名目上、徳川家と朝廷の利害関係のために京から江戸へ結婚のためにつれてこられました。そのため、結婚当時はかなり傷心状態だったようです」(堀江先生)

 天皇家から武家への嫁入りだと、生活スタイルも全く違うと思いますが、周囲との関係など、色々と問題も多かったのでは?

「やはり、大奥との間でもいろいろと軋轢があったようですね。和宮にとっては朝廷と将軍家を結ぶ、外交官になるような感覚で江戸を訪れていますし、少なくとも嫁いできた当初、彼女のなかには皇室の人間としてのプライドがあって、『嫁にきても皇女は皇女』という意識がありましたから。しかし、家茂は大奥で孤立しがちな彼女を何度もかばい、一途に愛していたと言われています」(同)

 家茂が唯一の救いだったのですね。深く愛されていると知った和宮に、変化はあったのでしょうか?

「彼は常に大奥へ通って、和宮と一緒にご飯を食べていたそうですからね。傷心だった和宮もだんだん心を開き、二人は相思相愛の夫婦になれました。しかし、彼は20歳にして病気で亡くなり、彼女は若くして未亡人になってしまうのです。そして彼の死後、『いつも君だけを愛している』と一途な愛を誓ってくれていたはずの彼に、他にも女がいたことがわかってしまったようです」(同)

 しかし、当時は一夫多妻制ですし、他に世継ぎを生ませる側室がいてもおかしくなかったのでは?

「いえ、家茂には側室はいませんでした。それに、一夫多妻制が認められてはいたものの好き勝手に側室を迎えるわけではなく、正室に相談してから新しい妻を持つことが多かったのです。確かに、和宮にはなかなか子どもが生まれませんでしたが、家茂は彼女の手前、他の妻を迎えようとはしませんでしたし、彼女もそれを信じていました。

しかし、長州討伐で彼が大坂城に滞在していたとき、他の武家の女性に世継ぎを生ませるために、和宮に秘密で2、3度関係を持っていたという記録が残っています」(同)

 一途に愛した人が、自分の知らないところで別の女性と関係を持っていたことを知った和宮は、その後どうしたのですか?

「自分を真正面から否定された思いはあったでしょう。彼の死後、和宮は京に一時的に戻ったとき、彼の位牌を持たずに帰ってしまったと言われています。このことから察するに、ショックを通り越して怒りの気持ちがあったのではないでしょうか。

しかも、相手は死人ですから怒るに怒れない。さらに当時、皇女は、儒教の教えを背景にした慣例があって、夫の死後他の男性と結婚することが許されていなかった。誰にも理解されない苦しい思いを、一人で抱えていたのかもしれません」(同)

 自分を唯一救ってくれた人がいなくなり、さらに、その彼に裏切られたショックが重なり、彼女の苦しさは計り知れないものだったと思います。その後の彼女の人生はどうなったのでしょうか?

「彼女は明治維新前後の東京で、32歳の頃に病気のため亡くなります。このとき、『家茂の側に葬って欲しい』と遺言を残したそうですよ。プライドの高い彼女がいつ彼を許せたかはわかりませんが、最後の最後で彼を受け入れ、思いやったのでしょう。

彼女が残した和歌に『よそほはん 心も今は朝かがみ むかふかひなし 誰(た)がためにかは』というものがあります。『もう化粧をする気もない。だって一体誰に見せたらいいのか』という意味ですね。日記で見る限り、もともと化粧は好きではなさそうな和宮でしたが、家茂の生前は、病気のときですら彼が見舞いにくると知ると化粧をしていたよう。心から彼を愛していたのでしょうね」(同)

 当てどころのない怒りや悲しみを、全部自分でひきとった和宮。せめて彼女が再婚できる身分だったらどうしていたのでしょうか。死んでしまった彼を憎み愛し続けたのか、それとも……?

(小野田弥恵/プレスラボ)
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ライター

小野田弥恵

プレスラボ

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